鏝絵の理想宮

Art

木造2階建ての壁面に松竹梅そして鶴。この縁起の良いグラフィックは鏝絵で描かれている。鏝絵とは左官による装飾技法のひとつで、左官道具の鏝(こて)を使って、漆喰やセメントでレリーフの様な絵に仕上げたもの。古くは古墳や法隆寺の壁画にも見ることができ、現存する明治大正期の商家などの壁面に縁起物として描かれたものをたまに見かけることがある。近代化やライフスタイルの変化によって無くなろうとしている職人技のひとつだ。

以前から気になっていた三浦鏝絵美術館へ行ってきた。大通りから入り込んだ何処にでもある住宅街のなかにあって、あきらかに廻りとは違和感があるのですぐに見つけることができた(笑)。
普段は左官業を営む主人が、自宅兼作業場を今では少なくなってしまった鏝絵を身近にみれるスペースとして解放している。職人として駆け出しの頃、ロダンのレリーフに魅せられ、伝統的な鏝絵の技法があるのを知らず独学で始めたというその作品は、日本画的な図案ばかりではなく、アニメのキャラクターや時事ネタ、日常の身近かなものなど多彩だ。そして、最大の魅力は伝統に縛られない作家性。そのヘタウマ加減がみる人のハートを掴んではなさい。

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まずは、外回りからということで見ていると、住宅の裏には職人技が存分に発揮されたアーティステックな壁も見受けられる。本番前の試し塗りなのか?それとも新たな境地への探求なのか?いずれにしても主人の脳内アルゴリズムから導き出されたであろうデザイン的表現が展開されてる。

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美術館の入り口の周囲には施設に収まらなかったキャラクターがちらほら。一見かわいらしく作ってあるのだが眼が笑ってなくて怖い(笑)。

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先に見た木造住宅の隣にご主人所有のアパートがある。その地下部分と1階の一画が作品の展示スペースになっている。美術館のメインの地下入り口付近は、作品と一緒に本業の左官道具等が混然としているので単なる作業場としか思えない雰囲気。なので、そこを通り過ごし、川俣チックな「木造スロープ登り」を美術館の入り口と勘違いして2階へ。木造スロープはギーギーと音がして揺れるのでちょっとしたアドベンチャーが楽しめる(笑)。行ってみると2階は完全な賃貸アパート。恐る恐る登ったのに・・・。登って見てわかったのだが、このアーティスティックな木造のスロープは美術館の動線とは一切関係がなかった(笑)。

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気を取り直して、地下へ向かう通路からメインの展示室へ向かう。半屋外の通路からすでにたくさんの作品が展示してあって、平面の鏝絵の他に立体になった作品も見受けられる。先程もふれたが、左官資材や道具、どこからかもらってきたであろうジャガイモなど関係ないモノが作品の間に挟み込んであり、どこからどこまでが作品なのか見極めが困難。こちらの審美眼が試されているのかもしれない(笑)。

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展示室入り口ではご主人かなと思われる立像が出迎えてくれる。洋服が梅の鏝絵になっていて伝統的な技法に則って制作されていることが伺える。おそらくカーネルサンダース的なキャラを狙っているのかなと感じられたが、否定する自分もいたりして、ここでは心の葛藤が湧いてくると思うので念のため(笑)。

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美術館の入り口。特に係の人がいるわけでもなく勝手に御覧下さいとうスタイル。照明も自分で点けてくだい。もしかしたら日曜であればご主人がいたかもしれない。僕が伺ったのは平日のど真ん中ですからね、さすがのご主人も仕事行ってるよなー。

「2階も見て下さいこのまま上です」?確か入り口の看板では、ここが地下で、上が1階って書いてなかったっけ?まあまあ細かいことは気にせずに・・・。ここでは人の心を広くさせます(笑)。

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内部へ入ると、町の公民館の様な広いスペースに作品がずらりと並びます。

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伝統的な図案をモチーフにした作品から・・・

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ときおり姿をみせる心揺さぶる不思議キャラなど、作品の主題はバラエティに富んでいる。実をいうと安心してみれるはずの伝統的な鏝絵の方もちょっとずれた印象があるのだが、返ってそれが作品全体の変なパワーにもなっていて妙な統一感が心地よい。

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こちらは会場の一番奥にある作品で初音ミクとのこと。この作品情報は事前に入手していたので「ホンモノがみれた」とちょっとした感動があった(笑)。しかし、初音ミクを題材にするなんて、守備範囲の広さに感服してしまう。だってご主人は還暦をとうに過ぎた方ですからね。えっ、隣の作品は何かって?そっとしておきましょう。完全にイッっちゃってます(笑)。

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1階を、いや地下を一通り見終わって1階へ(笑)。一旦、入り口の看板の場所までもどり、すぐ脇にあるアパートの共用廊下を進んだ奥が1階の展示場。

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こちらはアパートの建物から下屋を出したような小ぢんまりとしたスペース。大濠公園やシドニーのオペラハウス、ゴッホのひまわりを彷彿とさせる作品が並び、そのモチーフはワールドワイド。先程の初音ミクもそうですが、統一感のない様に見える様々なジャンルを横断する主題選択の無節操さは、主人の貪欲なまでの創作意欲のあらわれであると理解できるのではないか。ここへ来て腑に落ちたような気がした。

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この作品は、オリジナルなのか、既にあるモチーフにならっているのか定かではないが、すごい技術が必要なのがわかる。幾何学的でいて有機的な不思議な作品。

はっきり云って外も中もかなり異彩を放っている。しかし、変な場所という一言では片付けられない、1人の人間の人生をかけた理想宮がそこにはある。現代アートを扱うようなギャラリーと比べても何の遜色なく楽しめると思う。入りにくさや難解さもよく似てるしね(笑)。ただ、残念だったのは作家であるご主人と会えなかったこと。作品の意味を伺うのは野暮ったいかもしれないが、作家の解説と一緒に鑑賞できたらより深められる。今度は日曜あたりを狙って行こうと思う。


三浦鏝絵美術館

住所|福岡県大野城市下大利4-7-1
年中無休・日の出〜日の暮れまで
TEL|092-596-0301
URL|http://www2.csf.ne.jp/~t-miura/index.html